長ーい回想シーンの後、冒頭で国旗を発見した宇宙飛行士が、今度はセレナイトの月面都市を探索する場面がテレビで生中継されている。地下都市のへ入って行った宇宙飛行士が発見したものは、既に滅びてしまったセレナイトの文明であった。
「何かの疫病によって彼らは絶滅したようです。」
と、すぐに原因を突き止めてしまうテレビのアナウンサーもすごい・・・

映画のラストシーンでベッドフォード老人は望遠鏡で月を眺めながら一人つぶやく。
「カボール・・・かれはひどい風邪を引いていたな。」

カボールが地球から持ち込んだ風邪のウイルスに免疫がなくて、セレナイトが全滅してしまうという結末は『宇宙戦争』を思い起こさせるが、これはハリーハウゼンがH・G・ウェルズに捧げたオマージュです。

マッド・サイエンティストが自らの発明により月に到着し、異世界の文明を滅ぼしてしまうまでの顛末を描いた作品・・・というと何だか恐ろしげですが、ラストだけがシビアで、全体的にとっても陽気に描かれているのであまり悲壮感は無く、ファミリー向けの娯楽作になっています。

月世界に残ったカボールはその後、セレナイト達とどんな時間を過ごしたのでしょうか。ベッドフォードと同罪ですぐに処刑されてしまったのか、それとも少しは新しい生活を楽しんだのでしょうか・・・
この映画と同様に人並みはずれた探究心ゆえに、最後に科学者が現場に残ってしまうというパターンの映画は他にもたくさんあります。どうしてもその後日談を自分で想像してしまうのですが、見終わった後に色々考えたり想像したりする事も映画の楽しみ方の一つだと思います。

この映画を見ている間、不思議と懐かしい気分になってくるのは、昔見た事がある映画だから、という理由だけでは無いような気がします。
多くの人が子供の頃に漠然と想像していた宇宙旅行って、多分この映画のような感じだったのでは? あり得ないと解っていても、スペース・スフィアの仕組みを嬉々として語るカボールに思わず納得してしまう人も多いのではないでしょうか。

実物大のセットでの撮影、ミニチュアのセットで撮影され、マット合成を駆使して作られたそれらの画面のレイアウトはとても美しい。全編を通してそれらのデザインが醸し出すレトロな雰囲気を味わう事ができるのです。いい意味で、この映画は奇想天外という言葉が良く似合うと思う。今ほど科学が進歩していない時代のイマジネーションがこの作品を生み出したのかもしれません。

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