最後に、映画と神話の違いをちょっとだけ。
映画では天馬ペガサスにペルセウスがまたがって空を飛ぶシーンがあるが、神話ではペルセウスがメドゥサの首を切り落とした時に滴り落ちた血から生まれたとされ(映画では大サソリが現れる)、ペガサスを手なずけた英雄はベレロポンである。ペルセウスが空を飛ぶのは神からの贈り物である飛行靴を利用している。
ベレロポンはペガサスとともにキマイラを始めたくさんの怪物を退治した神話の英雄であるが、しだいに傲慢になりペガサスを駆ってオリンポスに登ろうとしたためにゼウスの怒りをかい、鞍から滑り落ちて地面にたたきつけられてしまう。ベレロポンは足を痛め、盲目となり、放浪の末に悲惨な死を遂げたということである。
映画では、ペルセウスがアンドロメダのためにメドゥサを倒しに行くが、神話ではメドゥサを倒した後にアンドロメダが生け贄にされるのところを発見し、救出する。メドゥサ退治の目的が違うのである。
映画ではメドゥサがかなり醜く描かれており、下半身が蛇で弓矢という武器まで持っているが、神話でそのような描写はない。羽を持っており、メドゥサを殺したペルセウスを残りの二人のゴルゴンが空を飛んで追う描写がある。
神話ではグライアイとゴルゴンは姉妹であるが、映画でそのような描写は無い。
クラーケンという怪物はギリシャ神話の怪物ではなく、北欧神話に出てくる海の怪物でありタコのような姿で描かれる事が多い。
というわけで、ギリシャ神話がベースになっているのですが、かなり自由な発想で話を膨らませて作られた作品と言えます。ギリシャ神話が好きな人にも興味がない人にも楽しめる冒険ファンタジーとなっています。神々の気まぐれに踊らされる人間の矮小さをちょっとだけ感じさせる物語。ギリシャ神話を念頭において見るも良し、子供に戻って見るのもまた良し、といったところでしょうか。絶対に見て損はない映画だと思います。
しかし、ペルセウスの冒険物語とはいっても、結局はゼウスと女神達の喧嘩のとばっちりを受けたにすぎないというのがいかにもギリシャ神話らしいところ。
この映画が公開された当時は、すでにスティーブン・スピルバーグやジョージ・ルーカスが特撮映画に革命をもたらし、ヒット映画を次々と制作していた時代でした。『スター・ウォーズ』の制作が1977年。この映画はその4年後に制作されました。
ハリーハウゼン自身、老いというものを痛感したのでしょうか? ハリーハウゼンが当時どのような事を考えていたのか知るよしもないですが、これが事実上の最終作であり、ハリーハウゼンはこの作品で引退することになりました。
特撮の一つの時代の終焉を告げた作品と考えるとなんだか寂しいですが、この作品を最後に引退とは、見事な引き際だったと思います。子供の頃から、ずーっと素晴らしいファンタジー映画を見せ続けてくれたハリーハウゼンに感謝。