弟子であるハリーハウゼンは『原始怪獣現わる』(1953)でフロント・プロジェクション方式を多用し、低予算で最大限の効果を上げることに成功。映画界にモデル・アニメーションは低予算でできるという認識ができてしまったため、モンスター映画は低予算で作られるものが主流になり、予算をかけて撮影するオブライエンの企画はなかなか実現しなくなってしまう。何とも皮肉な話です。

ハリーハウゼンの事を「ヤング・ハリー」(ハリー坊や)と呼び可愛がっていたオブライエンですが、『原始怪獣現わる』の制作に関しては批判的だったという話を聞いたことがあります。ストップモーションは予算と時間をかけて製作するものだという信念の持ち主でした。弟子に完全に追い抜かれたという事実をオブライエンはどう受け止めていたのでしょうか。

『黒い蠍』(1957)
その後、しばらくは目立った活躍をしていなかったオブライエンでしたが、1957年に『黒い蠍』でアニメーターとして本格的に復帰します。
巨大化した昆虫を扱った映画は、蟻が巨大化して人間を襲う『放射能X』(1954)やタランチュラを扱った作品、新しいところでは巨大アリの帝国(1977)など数多くありますが、実際の昆虫を撮影して背景を合成した物や、どう見てもあり得ないハリボテの昆虫であったりしてかなりがっかりした作品も多かったものです。
『黒い蠍』ではあり得ないほど大きなストップモーションで動くサソリが画面狭しと激しく動き回り破壊を繰り返す。その目を見張るような映像は他では味わえないほどの迫力です。ただし、これらのストップモーションのほとんどを手がけたのは、長年オブライエンの片腕として活躍していたピート・ピーターソンの手によるものだと言われているます。
あれほどの大きさ(20メートル位か?)で本物のサソリのようなスピードで動く姿はかなりの迫力で、サソリ以外の蜘蛛のような化け物やその他の昆虫の怪物もかなりの出来映え。実際、これらのストップモーションを見るだけでも、この映画を見る価値はあると思います。アニメーションで動く昆虫以外にこれといった見どころは無く、気持ち悪いだけの映画ですが、『キング・コング』を別格とすればこの作品がオブライエンの最高傑作ではないでしょうか。

『The Giant Behemoth』(1959)
そしてオブライエンが最後に手がけたのが『The Giant Behemoth』という映画。巨大な首長竜のような怪獣が出現するものの、あまりの低予算ゆえに都市破壊すらやらせてもらえなかったというB級作品。恐竜、ただのし歩くだけだったのか、心情を察して有り余る・・・この時代のモンスター作品としては、平均的なレベルに仕上がっているとは思いますが、これが偉大なオブライエンの最後の作品とはちょっと寂しい・・・

1962年11月8日、オブライエンは心臓発作で帰らぬ人となる。
結局1933年の『キング・コング』を超える作品を作ることが出来ず、実質上『キング・コング』を最後に映画界からほぼ姿を消すことになってしまいました。実力の割には不遇な扱いを受ける事が多かったオブライエンですが、彼が全てのモンスター映画の原点であり、多くの後継者を排出し、今なお世界中に彼の作品のファンが数多くいることは間違いありません。『キングコング』が存在しなければ、レイ・ハリーハウゼンという特撮の神様も誕生しなかったかもしれないのです。
もしかしたら、オブライエンの最大の功績は『キングコング』を作ったことにより、レイ・ハリーハウゼンを特撮の世界へ導いた事なのかもしれません。

近年、興味深いアンケート結果を目にしました。2004年、英映画雑誌エンパイアの最新号が選んだ「映画の怪物・怪獣ベスト10」で、『キングコング』(1933年)がトップに輝いたのです。2位はハリーハウゼン作品『アルゴ探検隊の大冒険』の『タロス』でした。

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