大サソリ

『キングコング』で有名なウィリス・H・オブライエンが、久しぶりにアニメーターとして本格的に復帰した作品『黒い蠍』(1957)に登場した大サソリ。
節足動物独特のガザゴソした動きがストップモーションの技術に合うようで、サソリのアニメーション自体はかなりの出来映えだと思う。アニメーションのほとんどは助手のピート・ピーターソンの手によるものである。

モンスターというよりも、バカでかいだけの単なるサソリなのだが、とにかくコイツが気持ち悪い。いくら何でも大きすぎるだろうって思える程で、大きさの割に動きもすばしっこい。人間を襲うのは当然だが、戦車を片手で捕まえて放り投げたり、ヘリコプターまでハサミで捕まえて墜落させてしまうのだからその凄さがわかるだろう。街に現れた時のその大きさと動きも十分怖いのだが、特に気持ち悪いのは画面でアップになった時の顔の造形。

クローズアップになったその顔は、何処を見ているのか良く解らない目玉が印象的で、口からは常に唾液の様な物を垂れ流しているというグロさ。そして、サソリが破壊を繰り返すシーンになると、そのグロテスクな顔のアップが数十秒おきに画面に挿入されるというもの凄い編集・・・ほとんど嫌がらせだ。あまりにもしつこく挿入されるので、見終わった後は完全に脳裏にに焼き付いている。

この顔は夢に出てきますよ・・・

しかし、クローズアップ用に作られたサソリの顔の造形と、ストップモーション用の造形が明らかに違うのはいかがなものか。アップになった時の躍動感の無さは、ストップモーションで暴れまくるサソリとは思えないし、編集にはかなり不自然さが残る。

この映画には大サソリの他にも大蜘蛛やハサミを持つ巨大なミミズのような怪物が出てくるのだが、それらもサソリに負けないほど不気味。ストップモーションが見どころの作品なのだが、不快なだけで何の感情移入も出来ない化け物たちです、これは。

ほぼ同じ時期に弟子のハリーハウゼンが『シンドバッド七回目の航海』を作っていたことを考えると、ずいぶんと弟子に差を付けられたなぁ、という印象。

近年、この『黒い蠍』はDVD化されレンタルでも見る事ができるのだが、このDVDのすごいところはその特典映像。ハリーハウゼンが師匠オブライエンを語る『ストップモーション・マスター』、ハリーハウゼンとオブライエンの共同の仕事である『アニマル・ワールド』、そして、何とジム・ダンフォースやデビッド・アレンらによって発掘されたピート・ピーターソンのテスト映像まで収録されている。本編よりも興味深く、これは絶対にお買い得です。

戻る