「放送をお聞きの皆様、動きがありました!」
「物体の底の部分が開き始めました。」
「たった今、物体の端がはずれようとしています。頂上部がまるでネジのように回転し始めました。」

レポーター役のフランク・リディックの実況は真に迫っていた。
彼は前年に起こったヒンデンブルク号の事故を泣きながら実況したハーブ・モリソンを真似て、それを中継し、その恐ろしさを『宇宙戦争』で再現したのだった。このハーブ・モリソンの実況もテレビで聞いたことのある人は多いかと思います。

「大変です。みなさん、大変です。内部から何かが、何かが出てきました。怪物です。何かを持っています。拳銃のようなものです。光線のような物が出ています。近づいた人に当たり、炎があがりました」
「悲鳴です。炎が・・・車に燃え広がりました」

番組の冒頭から聴いていなかったラジオの聴視者は火星人が侵略してきたと本気で信じてしまった。その数は120から130万人と言われている。

聴視者からは「世界の終わりか?」といった問い合わせが殺到し、異変に気づいたラジオ局は何度も「これはドラマです」という注意を促したが、聴視者の多くはラジオ局の否定をも無視して家から飛び出し、車に飛び乗り逃げ始めた。
数百台の車が路上を埋め尽くしたというこのパニックは、翌日の午後まで続いたが、一人の死者も出なかったという・・・この悪名高き放送により、オーソン・ウェルズは一夜にして有名人になったのである。

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