美しい映像で、かなりの余韻を残すラストシーン。数年後に死んでしまうと分かっている親友と話をするのって、どういう気分だろう・・・今までの話は、全てこのラストシーンのためにあったのだ、と言いたい程感動的なシーンで、回想シーンでのチープな特撮を全て忘れてしまいました。この作品が古典となっているのは、このドラマ部分によるところも大きいのではないかと思います。
全ての「時間」を自分のものにした主人公が最後に選んだ道は、現実の世界を捨て、愛する人と新世界を築くために未来へと旅立つ事だった。ロマンチックで心が暖まる、そしてちょっと切ない気持ちになるエンディング。本当に素敵な映画です。
原作の方は、何故イーロイ族には老人がいないのか、彼らの服や靴はどこから来るのかなど、主人公の考察による様々な仮説が立てられ、サスペンス、謎解き的な要素が強く、人類の文明への批判精神なども色濃いのですが、映画の方はかなり原作に忠実ではあるものの、モーロックが悪で主人公が哀れなイーロイのヒーローという単純な物語の見せ方となっています。それ故に子供から大人まで楽しめるという一般向けの娯楽作品となりました。映画としてはこれで正解なのだと思います。
原作ではウィーナと死に別れになるのですが、映画では恋人と新世界を築くために、再び未来へと旅立つ。「タイムマシン」や「時間旅行」そして「未来世界」といった言葉が映画の一部に使われているだけで、その映画は絶対見てしまう・・・これらの言葉は、SF好きにとっては永遠にロマンや冒険心というものを感じさせてくれる、不思議な呪文のようなものです。こういうの言葉の響きに弱い・・・
こんなに純粋な動機でタイムマシンを使用する映画も珍しいと思うのですが、見終わった後に、いろいろと想像を巡らせるのも映画の楽しみ方の一つ。この映画は、そんな楽しみ方も出来る典型的な作品だと思います。ほとんどの場合、原作が素晴らしいものであると、映画は小説を超えることは出来ないものですが、個人的にこの作品は映画に軍配を上げたい。
再び未来世界へと旅立ったジョージはどんな世界を築いたのでしょうか。そして未来へ持っていった三冊の本とは何だったのか。小型タイムマシンに乗せられ一足先に未来へと旅立っていった「葉巻」と再会し、今頃一服しているのかもしれない・・・などと馬鹿な事を考えていたら、なんと後日談が存在していたのです。
近年発売されたDVDの特典映像のなかに、主演のロッド・テイラーと親友役のアラン・ヤングの二人による寸劇のような短いドラマが収録されており、それがこの作品の後日談ともいえる話になっているのです。『タイム・トンネル』の所長さんもコメントしている。現実に年をとった二人がタイムマシンのある研究室で再会し、対話だけで物語りが進行するという趣向のもので、ファンにとってはかなり嬉しいものとなっています。