瀕死の状態でベッドに横たわるウィルヘルムの元に、大勢の見知らぬ人物がどこからともなく現れる。
「今あなたが死ねば、私たちは生まれずじまいです。死ぬ前にどうか私たちに名前を付けて下さい。」と彼らは言う。事態が飲み込めないウィルヘルムであったが、意識が朦朧としながらも、懇願する彼らのためにウィルヘルムは一人ずつ名前を与えてゆく。

「・・・君の体は私の親指ほどもない。君のことは親指トムと呼ぼう」
「君の顔は灰だらけだ。じゃあ君はシンデレラ(灰かぶり)だ」
「君の肌は雪のように白い・・・白雪姫(スノーホワイト)だ」
「君達はヘンゼル、グレーテル。そして君は赤ずきんちゃんだ」
すると、名前を与えられた彼らの体が次第に見えなくなっていく。
「駄目だ、消えてはいけない」とウィルヘルム。
「我々には時間がない。あなたの息が絶える時、我々も・・・」
「さようなら。さようなら、グリムさん」
「我々を呼び戻せるのはあなただけだ。」
といって彼らは姿を消してしまう。

生死の間をさまようウィルヘルムの元に「これからウィルヘルムによって生み出されるはずの童話の主人公達」が現れるというこのシーンは、とても幻想的で美しく、見る者に感動をあたえる名場面となっています。

やがて意識が戻ったウィルヘルムは一命を取り留める。
そして、弟の熱意に負けたヤコブはウィルヘルムと共同でおとぎ話を出版する事を決意。しだいに世界中の子供達の人気者になっていく。やがて二人の著書が評価され、王立アカデミーの会員に選ばれる。喜ぶ二人であったが、評価された著書は文法や古代法など、二人が共同でおとぎ話を創作する以前に兄ヤコブが書いた作品ばかり・・・

おとぎ話が全く評価されずに落ち込むウィルヘルムは、認証式のためにベルリンに向かう列車の中で寂しげに、
「僕をだだの弟だと言ってくれ・・・」
と兄に言う。会員に選ばれるという名誉と自分は無関係だからである。
慰める言葉が見あたらない兄ヤコブ。
ところが、認証式のために二人がベルリンに到着すると、そこで待ったいたのは二人を大歓迎する大勢の子供達だった。集まってきた子供達は「おとぎ話、聞かせてー」の大合唱。兄ヤコブが嬉しそうな笑顔で、ウィルヘルムにそっと耳打ちする。
「僕をただの兄だと言うんだ」
唖然とするアカデミーのお偉いさん達の前でウィルヘルムは子供達に向かって語り始める。

「昔、ある所に二人の兄弟がいました・・・」

喜ぶ子供達の大歓声の中、「そして、彼らはいつまでも幸せに暮らしました」とテロップが入って、映画は幕を閉じる。

というお話で、ファミリー向けで子供から大人まで楽しめる娯楽作となっています。DVDで発売されていないのが不思議なほどの傑作だと思うのですが、あまりにも色々な要素が詰め込まれているので、見る人によっては全てが中途半端な作品と評価されてしまうのかもしれなません。ストップモーションやミュージカル、モンスターと見どころがたくさんあり、さわやかな兄弟愛の描写も見ていて心地よい。パルの後期の代表作といえる作品だと思います。

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