翌日、船長とドクターが再びモービアス博士を訪ねて行くと、そこには全裸で泳ぐアルタの姿が。無垢なアルタは、
「水着ってなぁーに?」

男子の誰もが目を皿のようにして画面を食い入るように見つめ、そして誰もがアルタが全裸ではないという事に気がつくシーン・・・うーむ、これはバレないようにもっとしっかり編集して欲しいものです。

事件の犯人と疑われたモービアス博士は、この惑星の先住民、クレル人について語り始める。博士の話によれば、クレル人の文明は高度に発達しており、自然の神秘を解明しそれ自体を征服した。そして、病気も犯罪も克服したのが、輝かしい歴史を目前にして彼らは一夜にして滅びてしまったのだと言う。

この映画で一番感心したのは、クレル人の姿を見せなかったという事。容姿の記録が残っておらず、残された建造物などから想像するしかないという設定は想像力をかき立てられ、不格好な宇宙人を見てガッカリする事も無い。

最初にクレル人が50万年前に残したという音楽を聴かせるのだが、これは今聴いても新鮮・・・と言っていいのかどうか微妙ですが、何とも摩訶不思議な音楽だ。エレクトロニック・サウンドの第一人者であるビーブとルイスのバロン夫妻が電子回路を使用して作り出したもので、全編に流れる効果音などど共通している。この前衛的なサウンドは、いかにも何かが起こりそうな惑星のイメージにも良く合っており、この映画のイメージを決定づける大きな要素となっている。

ここではモービアス博士がクレル人が残したという壮大な地下施設を案内するのですが、最初にこの映画を見た時に最も目を奪われたのがこのシーン。この地下施設は惑星の地下のエネルギーを利用しており、古くなると自分で修理し、なおかつ現在でも少しずつ改造されているという設定。つまり、廃墟と化した地下基地のような物ではなく、自動維持システムを持つ、一つの巨大な機械というわけです。この巨大な機械の見せ方がものすごく巧い。

他にも、光線中で撃っても溶けない金属製の扉、ホログラム装置、失敗すると命を落とすことになるが、知能指数が3倍以上にもなるIQ増幅装置、そして地下施設を移動するシャトル・カーなどSFマインド溢れる描写には圧倒されるばかり。

やはりこの映画が与えた影響は大きく、『タイムトンネル』の地下基地はこれにそっくりだし、日本の東宝特撮映画『地球防衛軍』にも明らかに影響を与えている。もしかしたら『ウルトラマン』の科学特捜隊の制服などもこれの影響があるかもしれない。

そして、この夜二度目の事件が起きるのですが、次第に怪物の恐怖が迫ってくる演出も見事で、イデ隊員似の乗組員とロビーが健康を祝って乾杯していると、一瞬ロビーの動きが止まり、辺りを見まわすような動作をする。
「どうした、何か来るのか?」とイデ隊員が聞くとロビーは、
「いいえ、こっちの方向には来ません・・・。」
このやりとりは恐怖感をあおるのに十分だった。

その「何か」は宇宙船のまわりのバリアーに一瞬触れたが、何事も無かったかのように進入し、乗組員の一人を殺害する。この事件を知ったモービアス博士は、これはほんの始まりにすぎないと忠告する。

そしてその夜、武装した宇宙船の前に正体不明の怪物が現れる。

「レーダーには写るのだが、肉眼でその姿をとらえる事が出来ない」という設定もこの当時にしては画期的だったのではないでしょうか。その様子を無線で報告する時のやり取りは、ドキュメンタリーの実況中継のよう。

「レーダーに反応が・・・岩の先です。」
「進路は?」
「こっちに向かってきます。」

足音のようでもあり、怪物の心臓が脈打つ音とも解釈できるようなサウンドが恐怖感を煽る。

「すぐ目の前にいます。家ほどの大きさです。」
「確かか?」
「動き始めました、まっすぐ向かってきます。」

もの凄い緊迫感の中、バリアーに触れたその瞬間、突如として怪物の輪郭が浮かび上がるシーンはSFファンにとって感涙ものだ。ここで怪物を迎え撃つ兵器のデザインは、東宝特撮でお馴染みのパラボラ兵器に影響を与えたと思われます。

このシーンであえて注文を付けるとすれば、光線銃の効果音をもうちょっと何とかして欲しかったかなと・・・「ピッ、ピッ、ピッ」って、ちょっと安っぽい。これと比較すると東宝の兵器の迫力はすごかった。