1952年頃ハリーハウゼンは『The Elementals』という作品を企画していました。コウモリのような宇宙人が、パリのエッフェル塔に巣をつくるというストーリーで、彼自身がヨーロッパ旅行をしたかったのでロケに必要な舞台をパリに設定したのです。しかし、この作品の製作は実現しませんでした。
もう一つの企画で金星から持ち帰った標本から怪物が生まれ、地球の環境が生物に影響を与え一晩で2倍のサイズになる『The Giant Ymir』という企画も考えていました。その後、チャールズ・H・シニアがこの企画に興味を示し、製作が開始されることになったのです。

最初のイーマのデザインは、一つ目で鬼のような角が生えているデザインだったのですが、この時は採用されず、『シンドバッド7回目の航海』のサイクロプスの原型になりました。

最終的に決定したイーマの口元には髭があるようにも見えるのですが、これはセイウチにヒントを得たもので、そのデザインは『タイタンの戦い』のクラーケンに引き継がれています。


映画は、アメリカが極秘に打ち上げていた人類初の有人金星探検ロケットがシシリー島沖に墜落するところから始まる。

救助に駆けつけた地元の漁師の息子ペペが海岸に漂着しているカプセルを発見し、開けてみると中からゼリー状の奇妙な物体が出てくる。カウボーイ・ハットを買うお金欲しさに、ペペは近所に滞在中の動物学者のレオナルドに200リラで売ってしまうが、実はこれが金星から持って来た謎の生物の卵(繭?)だった。やがて卵は孵化し、金星怪獣イーマが誕生する。

冒頭の金星ロケットの墜落シーンはなかなかダイナミック。そのでかい事!海に突き刺さっているロケットは壮観。

この映画、『金星怪獣イーマの襲撃』という邦題で昔よくテレビで放送されていて、『怪獣図鑑』のような類の本にも良く載っていたように記憶しています。『地球へ2千万マイル』を見た時、「あれ・・・?これってイーマじゃん」て思いました。

ちなみにイーマというのは北欧神話に登場する巨人イミル(Ymir)からとったもの。神話では神々と対峙する巨人で、彼の体(死体)から世界が造られたとされています。


この映画も話は単純。逃げ出した怪物がやがて人類の脅威となり、軍隊によって退治されてしまう、というもの。
しかし、ハリーハウゼンが演技させたイーマの動きは素晴らしい!
もともと素晴らしかったハリーハウゼンのアニメートの技術にもますます磨きがかかった印象。実写との合成も相変わらず上手く、ハリーハウゼンのモンスターへの愛情(色々な意味で)が伝わってくる作品となっている。

動物学者レオナルドの家で孵化するイーマ。
眠い目をこすりながら目覚める。ここでのイーマは、
「うーん、眠いなぁ・・・眩しいよー、あれ? ここ何処、あんた誰?」って感じで、怪物というよりも、生まれたばかりの変わった生物の赤ちゃんといったところ。


「映画全体を通して、イーマに見る者の同情が集まるようにした」とハリーハウゼンは語っている。最初は爬虫類のような造形のイーマも考えたらしいのですが、人間らしい表現が出来るようにデザインは人間型になったそうです。

レオナルドは見察のため檻に入れて様子を見ることにする。
翌日、体の大きさが2倍ほどになっているイーマを見て驚くレオナルド先生。
レオナルド先生はイーマを檻に入れてローマへ運ぼうとするが、車で向かっている途中に檻を破壊して脱走してしまう。この時点でほぼ人間大の大きさ。物理の法則を完全無視して成長を続けるイーマ・・・