息子ジェイイソン

テッサリアには、アタマス王の国の近くにもう一つの国があった。イルオルコスの町である。この町をアイソン王が治めていたが、父親違いの弟ペライアスに謀られ王位を追われた。アイソンが老齢であったためペライアスはアイソンの息子のジェイソンが成人になるまで自分が王位につくという。しかし、そんな約束があてになるはずもなく、王子たちは次々と殺され、生き残った末っ子のイアソンだけが母親の配慮でペリオン山に住む神人ケイロンに預けられる。

ケイロンとはケンタウロス族の一人だが、クロノスが妻の目を誤魔化すために馬に姿を変えて女と交わってできた子であるために、姿は半人半馬のケンタウロスであるが、頭脳明晰であった。ケイロンから学術、武術の教育を受けて、ジェイソンは立派な若者に成長した。

そしてジェイソンはペライアス王の前に現れ、自分が王子ジェイソンであること、かつての約束通りに王位を継承したいと当然の権利を要求した。その時ジェイソンは、川を渡る途中に靴が脱げてしまい、片足しか靴を履いていなかった。
その姿を見たペライアス王は震え上がった。数年前、ペライアス王が神託を受けた時、片方だけ靴を履いて来る者に王位を奪われると言われており、その男が現れるのを恐れていたのだ。しかしペライアス王はそうやすやすと王位を譲る気などなかった。
「よかろう。王位の継承はお前の父上と約束した事だ。約束は守らねばならぬ。だが、お前にそれだけの力量があるのか試させてもらおう。」
そして、ジェイソンに黄金の羊の毛皮を探すという名誉ある冒険の旅にでてはどうかと話を持ちかけるのである。

「私たちの従兄にプリクソスとういう者がいた。プリクソスはヘルメス神から黄金の毛皮の牡羊を貰い、これにまたがって空を飛び、コルキスの町まで飛んで行った。そこでコルキスの王アイエテスに謀殺され金の羊も皮袋にされコルキスにあるという。この黄金の毛皮を取り戻して、プリクソスの霊を慰めてやらねば、ヘルメス神に対して申し訳が立たない。コルキスまで行って黄金の毛皮を取り戻してきてくれ。黄金の毛皮を無事に持って帰って来た時がお前が王位を譲り受ける日だと思ってくれ。」

これを承諾したジェイソンは、早速コルキス遠征への準備を始めるのである。