月世界を扱った映画で真っ先に思い出されるのが、ジョルジュ・メリエスの『月世界旅行』(1902)ではないでしょうか。SF映画史などの特集があると、必ずと言っていいほど最初に取り上げられる作品。大砲で撃ち出されたロケットが、月に命中して月に描かれた顔が歪むというアレです。誰もが一度は見た事がある場面だと思う。ハリーハウゼンの『月世界探険』はその62年後の1964年に製作されました。

実はハリーハウゼンが最も映画化を望んでいたH・G・ウェルズ作品は『宇宙戦争』であり、タコ型の火星人が円盤から姿を現すシーンのテスト映像も製作されています。資金の都合でお蔵入りになってしまったという事です。短いテスト映像なので何とも言えないのですが、やはりハリーハウゼンにはファンタジーの方が似合うような気がします。テスト映像のタコ型火星人の足が六本なのはハリーハウゼンのこだわりか、それとも単なる偶然だったのでしょうか・・・

『月世界探険』のオープニングクレジットはいかにも本格SF映画といった雰囲気。

1964年、国連の宇宙飛行士が世界初の月面着陸に成功。世界中が歓喜の渦に包まれる中、そこで彼らが発見したものは、ボロボロになった英国国旗と 「ビクトリア女王陛下に栄光あれ」と記された書簡で、日付はなんと1899年であった。
65年も前に人類が月に着陸していた!
宇宙飛行士から連絡を受けた国連宇宙機関は、書簡の署名を手がかりに、療養所で暮らすベッドフォードという老人を訪ねる。そこで彼らはベッドフォードが65年前に体験した、驚くべき事実を聞かされることになる。

ここまでの描写は正確な科学的考証の結果出来上がったもので、かなり現実に近いものに仕上がっている。冒頭の着陸用のカプセルが母船から分離される場面などもかなりリアルで、ハードSFといった雰囲気だ。NASAのデザインを参考にしたらしい。そしてここから先は、ベッドフォード老人の回想シーンで描かれ、映画の雰囲気は一変する。