奇跡の泉があるという寺院に、先に到着したのはクーラであった。

ここの原住民は、体全体が緑色で何だか可笑しい、その名もグリーン・メン。ジョージ・パルの『タイムマシン』でもモーロック人は緑色だったし、宇宙人の事を英語でリトル・グリーン・マンとも言う。うーむ・・・この時代の人々の、異種族の人間に対するイメージが緑色だったという事か。安易な設定のような気もするが。

原住民に取り囲まれたクーラだったが、ここで崇められていたカーリー神にダンスをさせるという荒技を披露。原住民を怯えさせて従わせる事に成功する。

インドの女神カーリーは、ハリーハウゼンが長年、映画に登場させたいと考えていたキャラクターで、『七回目の航海』でようやく実現。力の入ったストップモーションを見せてくれています。女神なのに足が短く、あまりプロポーションの良くないカーリーのダンスは、首を左右に動かすなどの東洋的な動きもありちょっと滑稽ですが、なんとこの場面のストップモーションだけで一ヶ月半もの時間を費やしているという事です。

同じアラビアン・ナイトを題材にした『バグダッドの盗賊』(1940)にも同じようなのが出てきました。こっちは人間が演じていたが、魔術師によって操られるという設定は同じ。楽器を持っているので、これはサラスヴァティーでしょうか。インドの神様って手が数本あるのが多いです。

ここで、シンドバッド一行がようやく到着し、クーラが操る『破壊の女神』カーリーとの戦いが始まる。クーラが剣を渡すと、六本の腕それそれから剣がニョキッと生えてきて、六本の剣をジャキーンとシンドバッドに向けるシーンは、いかにも戦闘モードに突入!といった雰囲気でカッコイイ。

六本の腕にそれぞれ剣の持って戦う姿は圧巻で、そのストップモーションの動きと役者達の動きを合わせるのは至難の業に違いないのですが、さすがはハリーハウゼン。ガイコツ剣士との戦いに勝るとも劣らない見事なシーンに仕上がっています。ハリーハウゼン以外のストップモーションでは見られない神業だ。このシーンには思わず拍手喝采で、個人的にはガイコツ剣士との戦いよりも印象に残っています。


この場面の撮影では、数週間に渡る殺陣の訓練が行われ、リハーサルでは三人のスタントマンがベルトで繋がれて、カーリーの六本の腕を表現したとの事。その場面を想像すると何だか笑える。そして撮影では、等身大のカーリーの絵をくり抜いた厚紙を用意して、それを目安にして俳優たちが演技をし、最終的に合成作業が終了したのは一年後だったという。こうして、永遠に語り継がれるであろう名場面が出来上がったのです。マウスをクリックして作った映像と違って頭が下がる思いです・・・

カーリーの一連のシーンで、最初に出てくる等身大のカーリー像と、ストップモーション用のモデルの造型が実は多少違っているのです。コミュニケーションが上手く行かずにこういう結果になってしまったのですが、ハリーハウゼンにとってこの事実は非常に悔いが残るものだったようです。比較してみると等身大で作った彫像の方が男っぽい顔をしているのが分かります。このページの一番上の写真が等身大の彫像です。

最後は、お調子者キャラのハロウンの後部からのタックルにより、階段の上から落っこちて、パリーンと割れて意外とあっけない最後。またしても定番である「高い所から落っことしてしまえ」作戦が功を奏したわけです。しかし、戦いの最中にカーリーが階段を上りだしたので、この結末は読めてしまった・・・