『ジャックと悪魔の国』(1962)
イギリスの民話『巨人退治のジャック』をベースに作られた映画で、監督は『シンドバッド七回目の航海』のネイザン・ジュラン。『七回目の航海』の主役であるカーウィン・マシューズ(シンドバッド役)とトリン・サッチャー(魔術師ソクラ役)が、そのまま主人公ジャックと適役の魔術師ペンドラゴンに扮しています。リメイク版か、と勘違いされそうなキャスティングですが、これにはちょっとした理由があったのです。

ハリーハウゼンが様々なプロデューサーやスタジオに『シンドバッド』の企画を売り込んでいたが、あまり良い反応は得られなかった、という事は『シンドバッド七回目の航海』のページに書きました。その時にハリーハウゼンが売り込んだ中の一人に、『ジャックと悪魔の国』のプロデューサーであるエドワード・スモールがいたのです。当時は『シンドバッド』の企画を却下したスモールでしたが『シンドバッド七回目の航海』が大ヒットすると、ヒット作を逃した事がよほど悔しかったのか、それに続けとばかりに全く同じような作品を企画。つまり、続編ではなく完全な二番煎じという訳です。

そして、特撮をハリーハウゼンに依頼するが断られ、その代わりとして白羽の矢が立ったのがジム・ダンフォース。この作品はダンフォースの代表作の一つと数えられるようになるのですが、『シンドバッド七回目の航海』と比較すると、映画自体の出来映えには雲泥の差があり、ストップモーションを担当したダンフォースの職人技だけが見どころの作品と言えます。
ストーリーは語るに足らず、モンスターの造形があまりにもひどい。ダンフォース自身「一番辛かったのは、一日中それらを見ながら作業しなければならない事だった」と語っているほど。
この映画を見た感想は、これが代表作と言われるとは、ダンフォースってあまり良い仕事に恵まれなかったんだなぁ・・・といったところ。

それにしてもこの映画、本当に真面目に作っているのか、わざとほのぼのとしたお笑い路線を狙っているのかマジで分からなくなる。魔法を使うシーンになるとその魔法の効果が、キラキラとお星様付きのアニメーションで表現されるのは昔の『コメットさん』みたいだし、魔法を使う時、煙とともに、ボンッ、と何かが現れるのは昔のTVドラマ『奥様は魔女』の魔法を思わせる。とにかく映画としては安っぽい演出なのです。
最初に登場するコーモロンというどうしても好感が持てない顔のモンスターは、下半身が『シンドバッド七回目の航海』のサイクロプスにそっくり。ジャックが魔術師ペンドラゴンの城にたどり着いた時に魔法で現れる足踏みだけで全く前に進まない五人の騎士には脱力。ほとんど単なる「やじろべえ」状態。

物語の後半に登場する双頭の巨人ガルガンチュアとシーモンスターの対決がこの映画の最大の見せ場なのですが、どう見ても安っぽいお人形さんが戦っているようにしか見えません。最後にペンドラゴンが変身したドラゴンは顔が猫という、全てがトホホ感に包まれていて、全く褒めるところが見あたらないこの作品は興行的にも大失敗に終わってしまいます。なぜかDVD化されているので、興味がある人は見てみてはどうでしょうか。
ある意味衝撃的だし、友人にでも見せれば色々な意味で話のネタになると思いますよ。でもこの映画見てる人はほとんどいないと思われるので、話のネタにもならないか・・・。しかし、元ネタとなった『シンドバッド七回目の航海』の素晴らしさを再認識できることは断言できます。