大恐慌で職を失い、今日の糧すら約束されない毎日。 街角には希望を見失った人々があふれていた。
そしてヒトラーによるオーストラリア侵略。
潜在的な戦争への不安。
ラジオから流れるニュースは暗いものばかり。
人々は娯楽を求めてバラエティ番組にダイヤルを合わせた。

当時人気があったのは聴視率90%を誇る『ザ・チェイス・アンド・サンボーン・アワー(The Chase and Sanborn Hour)』。
その裏番組が、当時23歳のオーソン・ウェルズの『マーキュリー劇場ラジオ・ドラマ』であった。聴視率で苦戦していた彼は『宇宙戦争』の舞台をニューヨークに移し、ラジオドラマに仕上げて放送した。


ザッピング(テレビを視聴するときに、CMや番組の途中でリモコンを使って次々にチャンネルを換えること。)


それは奇妙な偶然が引き起こした事件であった。
『ザ・チェイス・アンド・サンボーン・アワー』を聞いていた聴視者たちはコメディ部分が終わり、音楽が流れ出すと他でもコメディをやっていないかとダイヤルを回し始めた。
そして彼らはちょうどグローバーズ・ミルの実況シーンを聴くことになる。

「プリンストンから緊急ニュースです。ただいまニュージャージー州トレントンからあった発表によりますと、今日午後8時50分に、隕石と思われる巨大な炎に包まれた物体がトレントンから20マイルのグローバーズ・ミル付近の農場に落下しました。」

人々はラジオに釘付けになる。そしてさらにドラマはエスカレートする。