| 彗星に乗って | 
 | 2011-9-4 09:43 | 
 |  えー、今回書こうと思ったのは、前回のブログを書いている時に思い出した『彗星に乗って』(1970)という作品です。
 
 唯一無二の作品である『不思議惑星キン・ザ・ザ』に何か近い作品はないものか、と思い巡らせていたところ、内容も雰囲気も全く違うこの作品を連想してしまいました。
 
 共通点といえば
 
 好き嫌いがはっきりと分かれそうな作品
 
 唯一無二という言葉は当てはまりそう
 
 ゆったりしたペースと、どこかトボけた印象
 
 ある種の夢の中にいるような感覚を味わえる
 
 癒されもする
 
 よく分からんけど、おそらく風刺がちりばめられているのでは? と思えるところ
 
 などなど、などなど
 
 繰り返しますが、似ても似つかない映画です。
 
 「私が若き将校だった頃、多くの事件に出会った。今思えば夢のような出来事だ。その一つに奇想天外な宇宙の出来事がある。その思い出も色あせた絵葉書にのみ残っている。」
 
 という主人公の語りで映画は始まります。
 
 内容をビデオ・パッケージの裏側から引用すると
 
 1888年、アフリカのフランス領アルジェリア。フランス軍の若き中尉は、町で見かけた絵葉書の黒髪の美女にひと目惚れ。誤って海に落ちた彼を助けてくれたのは、なんと絵葉書の美女だった。その時、謎の彗星が地球に急接近、大地震とともに、町がまるごと彗星に吸い上げられてしまう。遠ざかっていく地球の影。そこは、前世紀の恐竜や翼手竜が住む世界だった…。
 『盗まれた飛行船』に続くヴェルヌ原作SFの映画化。アラビアンナイトと宇宙SFが組み合わさったかのような視覚効果、ゼマンの色彩方術が冴えるファンタスティック・アドベンチャー。
 
 というわけで
 
 地球上で争っていた人々が彗星での新生活を余儀なくされ、再び地球へと戻ってくるまでを描いた作品です。
 
 
  カレル・ゼマン監督の作品は私のブログでも何度か取り上げていますが、この作品もお気に入りの一つ。
 
 絵葉書を一枚ずつめくって見せるオープニング。そして、絵葉書の美女と出会い・・・
 
 ちょっと脱線しますけど
 
 子供の頃に絵葉書、あるいは絵画など何でも良いのですが、それらの作品を、じーっと眺めているうちに、実際にその世界に入って行けそうな錯覚にとらわれた経験ってないですかね?
 
 私の場合、実家の壁に掛けられていた水墨画の世界が、今にも動き出しそうな気がして、そこに入って行けそうな気がして、長時間空想の世界に浸っていた経験などがあります。
 
 床に置いた鏡の中に入って行けそうな気がして、思わず足を突っ込んでみたりとか。
 
 私が変なガキだったのか、そういう経験のある方が結構いるのかわかりませんけど・・・
 
 そういった意味でも、この映画は私にとって非常に共感できる作品となっているわけです。
 
 基本的には、アニメと実写の人間の合成。荒唐無稽で科学的考証など皆無。寝ている時の夢をそのまま映像化したような作品です。
 
 で、そのアニメの部分は、銅版画風だったり、古い挿絵風だったり、人形アニメだったりするわけですが、そんなゼマンの手法が、ファンタジー色が強いヴェルヌの作品に非常に良くマッチしているという印象。
 
 
  えーと、ですね
 
 ジョルジュ・メリエスのトリック撮影を意識し、SF創世記の作品を思わせるこの映像を斬新と取るか、安っぽいと取るかはその人次第、でしょうか。
 まぁ、絵そのものは古めかしいものなので、特に斬新というわけではなく、映画全体をその絵で表現した、という手法が斬新であったという事は言えるかもしれません。
 
 昔、この作品を隣で見ていた人の苦笑が忘れられません・・・
 
 というか、許せん( ̄W ̄;)
 
 バックの絵がショボくて、合成はお粗末、あまりにも作り物然としたストップモーションの人形
 
 その人の目には、そう映ったのは明らか。
 
 さらに
 
 物語の展開が起伏に乏しく、設定やそのスケールの大きさの割には、今ひとつ冒険心を刺激されません。ワクワクするような展開でもないので、それほど感情移入できるとも思えません。
 
 見る人によっては、これらの全てが欠点と映ってしまうのかもしれませんが・・・
 
 でも、
 
 結果的に凡庸な展開になってしまった映画とは違い、この監督さんの場合、意図的にこの独特の世界観を作っているのあって
 
 私の場合、これが完全にツボに入ってしまったという・・・
 
 SFでありながら、おとぎ話の絵本を見ているような感覚が心地よく、どこか懐かしい雰囲気。
 
 手作り感ったぷりのゼマン・ワールドには本当に酔いしれてしまいました。
 
 ヒロインが可愛いのもいいですね(*・・*)
 
 フィルターによって目まぐるしく色が変化する画面はちょっと鬱陶しかったですけど・・・
 
 
  コミカルな描写はあるものの、これほど奇想天外な物語を、シニカルでありながらちょっと切ない物語として描いたカレル・ゼマンは流石。
 
 絵葉書ではじまり、絵葉書で終わる
 
 青年と絵葉書の美女との実らない恋物語は、大人のための寓話といった趣です。
 
 独特のカレル・ゼマン・ワールドに魅了さるか、いまさらこんなの、で終わってしまうかはやはり人それぞれでしょう。
 良い本を読んできる時のようにイマジネーションを刺激されたい方にはお勧めの一本であります。
 
 
  
 | 
 
  | (トラックバックURL) http://palladion.fantasia.to/step_blog/archive_218.htm | 
 
 | コメント | 
 
  |  | 
 
 | コメント一覧 | 
 
  | 
    
    
     | 投稿者 : たあ カレル・ゼマン作品、大好きです!DVDのBOXセットの発売が決まった当時は躊躇無く予約しました。
 「悪魔の発明」を深夜放送で観たのがゼマン作品との初めての出会いでした。
 銅版画の挿絵を髣髴とさせる独特の美術についつい引き込まれ(「ヴェルヌの小説の挿絵そのままの世界じゃないか!」)、一瞬でゼマン・ワールドの虜になってしまいました。
 もちろん他の作品もそうですが、「美女」はお約束ですね!(監督の好みなのかな?)
 まさに「動く絵本」。
 |  
     | 2011/09/04 19:26 |  
     | 投稿者 : パラディオン おぉ! たあさんはカレル・ゼマンのファンでしたか。ゼマン作品ってテレビで放送された事があったのですね。恥ずかしながら、私はレンタルビデオの時代になって初めてカレル・ゼマンという人を知りました。ファンタジーでありSFでもあるヴェルヌの小説にはぴったりの作風で、こんな作品を撮る監督がいたのかという驚きとともにすぐに虜になってしまいました。
 少年時代にヴェルヌの小説にハマッた人には堪らないですよね。
 |  
     | 2011/09/04 20:42 |  
     | 投稿者 : esme >昔、この作品を隣で見ていた人の苦笑が忘れられません・・・
 うう・・・、これ私も映画館でこの映画を観ていた時、体験しました。
 やたら「クックック・・・」と笑っている人がいました。
 |  
     | 2011/09/04 21:07 |  
     | 投稿者 : パラディオン あぁ、やっぱりそういう人いますよね・・・この作風では万人受けしないのは明らかですけど、自分がうっとりしているのに横で笑われるのはちょっとショックです。
 ゼマン作品を見ていると、見た人の何割くらいが気に入るんだろう、っていつも思ってしまいます。あまりにも独特ですからね。
 |  
     | 2011/09/04 21:36 |  
     | 投稿者 : たあ まったく・・・・ SF・ファンタジー映画といえば「2001年宇宙の旅」「スターウォーズ」のようなリアルな特撮(もともとフィクションの世界を描いているのに「リアル」と言うのもおかしな表現ですが・・・)しか期待してない人々には、残念ながらこの作品(いや、ゼマンの作品)の良さは分からないんだろうな。(CGに頼らない)様々な撮影技法を駆使して現実とは異質の世界を表現する才能こそファンタジー映像作家に必要な物ではないでしょうか?
 ゼマンの作品の良さを理解するには童心に帰ることが出来るか?否か? ではないですかね?
 |  
     | 2011/09/04 21:59 |  
     | 投稿者 : パラディオン たあさんの言うリアルな特撮を期待する人、という表現良く解ります。たしかにそういう人には向いていないし、理解できないでしょうね。ゼマンの作品は、偶然や時代の産物ではなく、はっきりとした意思や創造性のもとに生まれた作品だと思ってます。
 私も思いっきり童心に返って見てます。
 |  
     | 2011/09/04 22:48 |  
     | 投稿者 : タノQ
	   
	    [home] 観たいと思う映画に限って、あれもこれもどれもそれも廃盤でガッカリいたします。うーん( ̄へ ̄)
 
 くすくす笑う、といえば例のもの購入なさいましたか。
 |  
     | 2011/09/07 20:35 |  
     | 投稿者 : パラディオン はい、あれは・・・もはやファンタジー作品だと思うのですが、このブログで書こうかと本気で悩んでおります。
 |  
     | 2011/09/07 20:48 |  | 
 
  | トラックバック一覧 | 
 
  |  | 
  
DVDのBOXセットの発売が決まった当時は躊躇無く予約しました。
「悪魔の発明」を深夜放送で観たのがゼマン作品との初めての出会いでした。
銅版画の挿絵を髣髴とさせる独特の美術についつい引き込まれ(「ヴェルヌの小説の挿絵そのままの世界じゃないか!」)、一瞬でゼマン・ワールドの虜になってしまいました。
もちろん他の作品もそうですが、「美女」はお約束ですね!(監督の好みなのかな?)
まさに「動く絵本」。