
モンスター図鑑第八弾、というわけでミナトンの登場です・・・怖い。
映画のほとんどのシーンでストップモーションで動かされていたミナトンですが、同時に着ぐるみによる撮影も行われていました。この着ぐるみに入っていたのが、ピーター・メイヒューという大柄な人。スターウォーズのチューバッカの役者さんです。
牛頭人身の怪物であるミナトンの元になったのは、ギリシャ神話のミノタウロス。ミノタウロスはかなり有名な怪物ですが、良く知らない人のためにちょっとだけ紹介します。
クレタ島のミノス王の妻パシパエと、ポセイドンから送られた雄牛の間にできた子供。本当の名前ははアステリオス(雷光)と言うのですが、「ミノス王の牛」という意味のミノタウロスが通称となっています。
どうして牛とパシパエの間に子供ができたのか・・・これは長くなるので省略。
成長し乱暴になったミノタウロスが手に負えなくなったミノス王は、ダイダロスに命じて作らせた迷宮にミノタウロスを閉じ込めてしまいます。アテナイから毎年(3年ごと、9年ごととも言われる)七人の少年少女を貢(ミノタウロスの食料)として送っていたのですが、テセウスがその中の一人となり、ミノス王の娘アリアドネの助けを得てミノタウロスを退治することに成功します。
この話は「アリアドネの糸」として有名ですね。魔法の糸玉でミノタウロスの部屋まで行き、帰りはその糸を辿って戻ってくるというアレです。誰でも一度は聞いた事があるのではないでしょうか?

ミナトンに話を戻します。
映画でのミナトン誕生シーンは、ゼノビアが機械の心臓を入れる場面だけですが、ハリーハウゼンはミナトンが製造される過程をもっと緻密に描きたいと考えていました。『フランケンシュタイン』の創造シーンと『ダンテの地獄篇』をイメージしていたそうです。
地下の地獄のような場所で、ゼノビアが操るシャドーマンと呼ばれる人たち(ゾンビのような物)がミナトンを創造するシーンが絵コンテに残されていますが、予算と時間の都合でこのシーンは作られませんでした。
ミナトンは悪の手先として、映画の中ではもっと重要な役割を演じるはずだったキャラクターでした。映画のクライマックスでは、サーベルタイガー(剣歯虎)とトロッグ(一角の原始人)が戦いましたが、最初の予定ではミナトンがトロッグと戦う予定だったのです。
ストーリーを煮詰めていく中で、サーベルタイガーとトロッグを戦わせるのがベストだという事になり、ハリーハウゼン自身もそう考え、結局ミナトンは映画の終盤に自滅に近い形で姿を消す事になってしまいます。
登場シーンが大幅にカットされ、クライマックスにも出番なし。寡黙なミナトンは映画全編を通してほとんど船を漕いでいるだけでした。しかし、その傑出した個性はハリーハウゼン作品の中でも最も印象に残るモンスターの一つと言ってもいいでしょう。
