
今回は1949年の『猿人ジョー・ヤング』
この作品はレイ・ハリーハウゼンの実質的なデビュー作で、チーフ・アニメーターとしてストップモーションのほとんど(約85%)を担当したそうです。セカンド・アニメーターはピート・ピータースン。
ストーリーは、ジョーと少女の友情物語、というありがちなものですが、個人的には「類人猿もの」の映画では最高傑作の一つだと思っております。前回べた褒めした『キング・コング』よりもこっちの方が気に入ってるくらいで、比較してみても劣っているのは全体的なスケール感の違いくらいのものでしょう。
監督のアーネスト・B・シュードサック、製作のメリアン・C・クーパー、特撮のウィリス・H・オブライエン、そして造型を担当したマーセル・デルガドは『キング・コング』(1933)とまったく同じメンバー。
『キング・コング』の大ヒットから約15年。「コングもの」の映画をもう一度作ろうという企画から生まれたこの作品は、その年のアカデミー特撮効果受賞を受賞しました。
二匹目のドジョウを捕らえようとして成功した珍しい例、と言いたいところですが、作品の評価は高かったものの、250万ドルという制作費を回収する事ができず、結局映画としては失敗作という事に・・・
この作品の見どころですが
まずは何と言っても、ストップモーションで動かされたジョーの表情豊かな顔や緻密な動き。十分な制作費と二年間という長い撮影期間のためか、ストップモーション自体がかなり長い時間楽しめるのがファンとってはかなり嬉しい。

ナイト・クラブのショーに出演した時のコミカルな仕草や困惑したような顔、檻での生活に疲れた時に見せる悲しげな表情、お酒に酔っ払うシーンや怒りが爆発した時のキレた演技など、どれをとっても最高の出来栄え。
これはマーセル・デルガドの造型とハリーハウゼンのテクニックの賜物でしょう。
モデルを掴むたびに指の跡が残ってしまう、というのはキング・コングと同じ。
ジョーが動くたびに体毛がチラチラと動くのですが、アップのシーンが多いためかキング・コング以上にはっきりと確認できます。
これって、特撮としては欠点という事になるのでしょうが、いかにも「手作り」というのがダイレクトに伝わるので、見ている方としては結構面白い。
最大の見せ場は、ジャングルを模したナイト・クラブで、ジャングル出身のジョーが大暴れするシーンでしょう。ターザンのようにロープで宙を舞い、ライオンと大立ち回りを演じ、大木をなぎ倒す姿はド迫力。『キング・コング』の重量感に対してこっちは躍動感で勝負、といったところ。合成もかなり良く出来ています。
火事で崩れ落ちる屋敷から少女を救い出すスペクタクルは最高。感動のクライマックスは涙を誘うこと間違いなしです。
故郷に帰り平和に暮らすとジルとグレッグ、そしてジョーの姿が映っている八ミリ(今のビデオレターですね)がオハラの元に送られてきて、それを見た皆が大喜びしたところで映画が終わる、というハッピーエンドがとても心に残る映画です。
さらに
ハリウッドのショーでコングと綱引き対決をする10人の力自慢の中に、実際にボクシングのヘビー級王者だったプリモ・カルネラが出演しているのも、当時の観客にとっては大きな見せ場だったに違いありません。他の9人は誰だか良く分かりませんが、もしかしたら有名なプロレスラーとか?

あとは音楽も印象的でした。
フォスターの名曲「夢路より(Beautiful dreamer)」が挿入歌として使用されています。
Beautiful dreamer, wake unto me
Starlight and dewdrops are waiting for thee
Sounds of the rude world heard in the day
Lull'd by the moonlight have all pass'd a way
Beautiful dreamer, queen of my song
List while I woo thee with soft melody
Gone are the cares of life's busy throng
Beautiful dreamer, awake unto me
Beautiful dreamer awake unto me
オルゴールの「Beautiful dreamer」を子守唄に育ったジョーはこの歌が大好き。口笛でジョーをなだめるシーンからハリウッドのショーの場面、エンディングまで効果的に使用されていました。
そういえばこの曲、学校の教科書にも載っていて、それが原因で嫌いになった人もいるのでは?
さらに半世紀が過ぎ・・・
1998年にはCG技術を駆使して『マイティ・ジョー』としてリメイクされました。
レイ・ハリーハウゼンや前作のヒロイン、ジルを演じたテリー・ムーアがカメオ出演していて、パーティ会場での二人のやりとりには思わずニヤリ。
「彼女、誰かに似ているけど・・・思い出せないわ」
「君だよ、私たちが初めて会った時の」
いいセリフですねぇ・・・
『猿人ジョー・ヤング』に対するリスペクトが随所に感じられる作品で、最初に見た時はそのCG技術に感心してしまいました。
テリー・ムーア、おばあちゃんになっても可愛い。
